注意すべき
自覚的副作用とその対応

流涙

流涙は半数の症例が投与開始から3ケ月以内に発現しています。軽度の例では投与中止により軽快していますが、涙道狭窄の見られる重度の症例では眼科的処置が必要です。そのため流涙が持続する場合や流涙の程度が強い場合には、涙道の狭窄や閉塞が発生していることも考えられることから、眼科医に相談し、適切な処置をとることになります。

発現率

ティーエスワンの承認時までの臨床試験及び市販後臨床試験(胃癌:SPIRITS)における流涙の発現率は下表のとおりでした。市販後臨床試験での流涙発現例50例中、グレード3は1例、グレード2は3例であり、他は全例グレード1でした(NCI-CTC ver 2.0)。

副作用 承認時までの臨床試験 市販後臨床試験(胃癌:SPIRITS)
単独投与
(751例)
CDDP併用投与
(55例)
単独投与
(150例)
CDDP併用投与
(148例)
流涙 21例(2.8%) 3例(5.5%) 24例(16.0%) 26例(17.6%)

発現時期

1999年3月より2012年9月までに集積された流涙症例から発現時期について110例で解析した。

発現機序

エスワンタイホウにおける流涙は、角膜障害による涙液分泌亢進や涙道障害による涙液排出低下がその原因として疑われます。角膜障害の原因として、フルオロウラシルは細胞分裂の盛んな細胞においてDNA、RNAの合成障害を引き起こすため、涙液中に分泌されたフルオロウラシルが、活発に分裂している角膜上皮細胞や輪部の角膜上皮幹細胞を障害することで発症すると考えられています1)。また、涙道障害の原因として、フルオロウラシルを含んだ涙液が涙道を通過することで涙道粘膜の炎症、涙道扁平上皮の肥厚と間質の線維化をきたし、その結果涙道狭窄・閉塞が生じると考えられます2)が、完全には解明されていません。

なお、角膜障害では流涙以外の症状として眼痛、異物感、視力低下、霧視などがあり、涙道障害では眼脂などがあります。

処置

エスワンタイホウの休薬・中止を検討し、必要に応じて眼科医へ紹介します。

眼科的処置として角膜障害に対しては、防腐剤を含まない人工涙液によりWash outを行います。障害の程度によっては抗菌薬やステロイドを投与することもあります。

涙道障害については、まず通水試験を行い、涙道の狭窄や閉塞の程度を調べます。軽度の場合には角膜障害の場合と同様に、防腐剤を含まない人工涙液によるWash outを行います。進行例については涙道チューブ留置術、涙小管形成術、涙嚢鼻腔吻合術などが行われます。

転帰

流涙の原因として疑われる涙道障害56例、角膜障害180例を対象として転帰について解析しました。

なお、これらの症例には投与を継続していた症例や処置の行われていなかった症例も含まれています。

  回復・軽快 未回復
涙道障害 43例(76.8%) 13例(23.2%) 56例(100%)
角膜障害 160例(88.9%) 20例(11.1%) 180例(100%)

対策

エスワンタイホウ投与中は流涙などの自覚症状について来院時に十分問診していただき、流涙が持続する場合は、角膜障害や涙道障害の発現していることが考えられることから、できるだけ早く眼科医に相談してください。眼科医を受診し眼科的検査や治療が行われた場合は、それらの結果をふまえて本剤の投与継続についてのご判断をお願いいたします。

*:<参考>NCI-CTC ver 2.0日本語訳JCOG版

  グレード0 グレード1 グレード2 グレード3 グレード4
流涙(なみだ目) なし 軽症、機能障害なし 中等症、機能障害はあるが
日常生活には支障がない
日常生活に支障あり
  • 1)細谷友雅:抗癌剤による角膜および涙道の障害-Corneal and lacrimal ducts disorders associated with anticancer drugs-. 眼科 54 (1) 27-32. 2012
  • 2)柴原弘明,久世真悟・他:S-1療法により流涙がみられた症例における眼病変の検討. 癌と化学療法 37(9)1735−1739. 2010