下痢
下痢は投与開始1~4週目に発現が多く、激しい下痢の場合に脱水症状まで至ったとの報告があります。下痢が発現した場合には重篤化しないよう減量・休薬を考慮するとともに止瀉剤を投与するなどの対応が必要です。また、脱水、電解質異常、低栄養にも注意する必要があります。
発現率
ティーエスワンの承認時までの臨床試験、使用成績調査及び市販後臨床試験における下痢の発現率は下表のとおりでした。単独投与に比べ、CDDP(シスプラチン)併用投与でより高い発現率でした。
副作用 | 承認時までの臨床試験 | 使用成績調査(単独投与+併用投与) | 市販後臨床試験(胃癌:SPIRITS) | ||||
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単独投与 (751例) |
CDDP併用投与 (55例) |
胃癌 (3808例) |
頭頸部癌 (375例) |
非小細胞肺癌 (1669例) |
単独投与 (150例) |
CDDP併用投与 (148例) |
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下痢 | 164例(21.8%) | 19例 (34.5%) |
629例(16.5%) | 31例(8.3%) | 126例(7.6%) | 34例 (22.7%) |
51例 (34.5%) |
発現時期
胃癌のティーエスワン使用成績調査での発現例(n=629例)は投与開始後1週目より発現し3週目が最も多く、投与開始4週間以内に71.4%の発現が見られ、初発までの期間の中央値は15日(n=570例)でした。また、後期臨床第Ⅱ相試験における初発時期の中央値は24.5日(2~189日)(n=100例)でした。
処置
エスワンタイホウによる下痢は腸粘膜上皮への直接作用によるものと考えられることから、処置としては、まずエスワンタイホウの減量、休薬であり、それに止瀉剤投与や整腸剤投与などの対症療法を行います。また、脱水予防のための水分補給も必要です。
薬物療法
- 軽度の下痢:収斂剤(タンニン酸アルブミン、ビスマス製剤)、吸着剤(天然ケイ酸アルミニウムなど)、整腸剤(ビフィズス菌製剤、酪酸菌製剤、有胞子性乳酸菌製剤など)などを用います。
- 高度の下痢:塩酸ロペラミドを用い、効果が不十分な場合にはリン酸コデイン、アヘンアルカロイドを用います。また、必要に応じて補液の投与を行います。
ケア
- 下痢発現時には、安静にして腹部を保温するよう努めます。食事は、温かくて消化吸収のよいものを数回に分けて摂取し、残渣の多いものや刺激物、炭酸飲料、生野菜、脂肪分の多いもの、乳製品は避けるようにします。また、脱水予防のための十分な水分補給を行います。
- 高度の下痢の場合には腸管の安静のため絶食させることも必要です。
転帰
胃癌のティーエスワン使用成績調査で下痢発現例(n=629例)のうち回復・軽快例は85.7%であり、回復・軽快までの期間の中央値は14日(n=539例)でした。また、後期臨床第Ⅱ相試験での最高グレード発現から消失日までの日数の中央値は9日(1~62日)(n=95例)でした。
下痢 | 発現例数 | 回復・軽快 | 未回復 | 不明 | |
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使用成績調査 | 胃癌 | 629例 (16.5%) |
85.7% | 11.4% | 0.3% |
頭頸部癌 | 31例 (8.3%) |
93.5% | 6.5% | - | |
非小細胞肺癌 | 126例 (7.6%) |
99.2% | 0.8% | - |
(調査票回収時の転帰)
再投与
エスワンタイホウによる下痢発現例では、休薬後の再投与時には減量投与を考慮する必要があります。特に、重篤な下痢が発現した場合で再投与が必要な場合には減量投与とともに、整腸剤などの併用投与を考慮することが必要です。